【記事】米国規制当局によるApple Watch Series 4の医療機器審査結果についての考察(前編)

はじめに

こんにちは。東京慈恵会医科大学 先端医療情報技術研究部の竹下康平と申します。

先日、米国Apple社から Apple Watch Series 4が発表され、心電図計測など医療機器に類する機能が発表されたため、日本での同デバイス利用についての憶測記事が多数出ています。

本研究部は日本国内で、Software as a Medical Device(SaMD)というソフトウェア単体での医療機器という新しい領域を開拓してきたため、今回のウェラブルデバイスに搭載されたアプリ・機能が医療機器になるかどうか、なるとするとどのような観点で審査されるのか、審査する側に必要な最新の国際的規制の枠組み動向に大きく注目しています。

一方、報道される多くの記事では、Apple Watch Series 4はアメリカでは心電図測定ができるが日本ではできないといった事実のみ記載されていたため、本研究部研究員の畑中洋亮からは、医療機器としての認可審査・販売について説明する寄稿など発信をしてきました。https://medit.tech/applewatch-japan-future-hatanaka/

本記事では、当局に所属していた経験を持つ人間として、もう一歩踏み込んで、公開された米国規制当局FDAのApple Watch Series 4審査結果・見解を一次ソースとして紹介し、そこに込められた意味を解読していきたいと思います。日本の医療機器審査機関など規制当局からは情報の発信がどうしても限られてしまうので、よりわかりやすく、より踏み込んでみたいと思います。

私(執筆者)の紹介

岡山大学薬学部、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科を卒業後、2010年、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)に入社。医療機器審査部にて医療機器の承認審査業務を担当し、臨床試験から動物試験、in vitroの試験まで幅広く評価を経験。薬事規制に関する講習会の講師も歴任。2014年には厚生労働省へ出向し、医政局経済課にて医療機器及び体外診断用医薬品の価格決定に関する事務を担当。以降、医療ITベンチャーにて、医療機器モバイルアプリについて日本初の保険収載を戦略的にサポートするほか、地域医療連携システムについても知見を深める。また、大手医療機器メーカーにて製品開発戦略を立案、価値に基づく医療の概念の普及に関する業務に従事。2017年からは東京慈恵会医科大学先端医療情報技術研究部の特任助教として、AMEDプロジェクトのパーソナルヘルスレコード、トリアージアプリに関する研究開発に参画するほか、医療費に関する研究、医療機器ベンチャーの育成と幅広く手掛ける。

アメリカの規制当局 FDAの発表

さて細かいことはさておき、2018年9月11日にFDAから発表された内容を見ていきましょう。
まず、今回のFDA認可が下りた対象は、Apple Watch Series 4 の端末そのものではなく「ECG/EKG」「Heart Rate Alert」の2つのアプリに対して認可(Clearance)が出たというのことが大事です。まずは、そのうちのECG appの審査の公開資料を見ていきましょう。

(FDA発表本文はこちら:https://www.accessdata.fda.gov/cdrh_docs/pdf18/DEN180044.pdf

Indications for use(使用目的):対象疾患

何に使うのかという視点はすごく大切で、注意を払うところです。「心電図を測るのに使います」なのか、「気軽に心電図を測かり早期発見・早期治療することで、不整脈の重症化を防ぐために使います」なのかはApple watchの特性を考えるとどっちも大差が無いようにも感じてしまいますが、規制上は大きな違いです。”本当に重症化を防げることを証明できたのか?” という問いに対して、Appleが答えを準備する必要があるからです。

The ECG app is a software-only mobile medical application intended for use with the Apple Watch to create, record, store, transfer, and display a single channel electrocardiogram (ECG) similar to a Lead I ECG. The ECG app determines the presence of atrial fibrillation (AFib) or sinus rhythm on a classifiable waveform. The ECG app is not recommended for users with other known arrhythmias.

今回のECG appでは、心電図のうち I 誘導に似た波形の生成・記録・表示などをして、その波形から心房細動や洞調律を判断するために使うと記載されています。また、できないことの明言として、その他の不整脈を持つユーザーにはECG appが推奨されないと記載されています。

Indications for use(使用目的):提供方法と結果の位置づけ

The ECG app is intended for over-the-counter (OTC) use. The ECG data displayed by the ECG app is intended for informational use only. The user is not intended to interpret or take clinical action based on the device output without consultation of a qualified healthcare professional. The ECG waveform is meant to supplement rhythm classification for the purposes of discriminating AFib from normal sinus rhythm and not intended to replace traditional methods of diagnosis or treatment.

OTCとなっているので、特に医師の処方等に基づかないで、ユーザーが自己判断で使用できるアプリという位置づけです。薬局で買える風邪薬など、処方箋なしで買える市販薬とOTC薬と業界では呼んでますが、それと同じです。

測定結果はあくまでもユーザーが医療関係者へコンサルテーションするときのトリガー(きっかけ)の位置づけであって、このApple watchで心房細動と表示されたからといってユーザーが自己の判断で治療を開始しないように求めています。疑いを持ったら、今まで医療機関でやられているように、きちんとした不整脈の検査受けてくださいね、ということですね。

なお余談ですが、心電計は医療機器に分類され、日本で販売するには販売事業者が医療機器販売業という資格を取得している必要があります。このアプリも心電計本体と同様にクラスIIに分類されるということなので、販売のための資格要件はそれほど厳しくないのですが、医療機器販売の従事経験だったり特定の講習会の受講が必要になります。
こういう形で販路の限定が起こるとAppleにとってうれしい話では無いので、戦略的には医療機器に相当するECGアプリ等はインストールしない形で出荷して、ユーザーが事後にアプリをインストール手法をとるなどが想定されます。

Indications for use(使用目的):年齢

The ECG app is not intended for use by people under 22 years old.

22歳未満は使用しないこととなっています。

次回の予告

米国規制当局によるApple Watch Series 4の医療機器審査結果についての考察(後編)